| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-298 (Poster presentation)
隠蔽色の生物は体色を背景の葉などに似せている一方で、マスカレードの生物は枝や鳥糞といった捕食者の食べ物でない物体に似せている。これら2つの異なる捕食回避戦略は、個体の微生息環境選択や生活史形質と関連していると考えられる。しかし、野外における見た目と微生息環境選択の関係について、近縁種間や同種内の異なる生活史段階の間での違いは明らかになっていない。そこで本研究では、カンキツ類を食樹とするナガサキアゲハとナミアゲハの幼虫を対象に、野外における微生息環境とそれに関連する生活史形質を調査した。ナガサキアゲハの幼虫は3齢以降は緑色で隠蔽的である一方、ナミアゲハの幼虫は4齢まで白と黒の模様としており鳥の糞に似せたマスカレードとして機能していると考えられる。調査の結果、ナガサキアゲハとナミアゲハの間で産卵位置や1齢幼虫の静止位置における開空度に有意差は見られなかった。一方で、2齢以降の幼虫期ではナガサキアゲハはナミアゲハに比べて開空度のより低い位置に静止していた。また、いずれの種も卵から終齢幼虫にかけて齢が進み体サイズが大きくなるにつれて開空度の低い位置に静止するようになっていた。これらの結果から、中齢幼虫以降、隠蔽的なナガサキアゲハの幼虫は枝葉によって周囲が覆われている微環境を選択し、鳥糞に似たナミアゲハの幼虫はより周囲が開けた微環境を選択していると考えられる。さらに、ナガサキアゲハはナミアゲハに比べて卵サイズ・幼虫サイズが大きかったことから、これらの生活史形質もそれぞれの捕食回避戦略に応じて進化していると推測された。