| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨
ESJ71 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-300  (Poster presentation)

大種子の意義:ブナ科当年生実生における萌芽再生力と非構造性炭水化物含有量との関係【A】
Adaptive significance of large acorn; relationships between resprouting and nonstructural carbohydrates reserved in first-year seedlings【A】

*真鍋昂生(横浜国大・環境情報), 壁谷大介(森林総研), 酒井暁子(横浜国大・環境情報)
*Koki MANABE(Yokohama Nat. Univ), Daisuke KABEYA(FFPRI), Akiko SAKAI(Yokohama Nat. Univ)

大種子から生じた実生は大きな根を持ち、高い萌芽再生力と高い成長量を実現している。しかしこれらは資源分配の面から潜在的にトレードオフ関係にあると考えられる。そこで本研究ではブナ科6種(クヌギ・アカガシ・コナラ・アラカシ・シラカシ・スダジイ)の当年生実生を栽培し、根の機能を貯蔵(非構造性炭水化物;NSC)と吸収(根の構造部分;RSB)に分け、これらと堅果重量、および展葉完了時に地上部を切除した場合と無損傷の場合の1か月後の地上部重量との関係を調べ、大種子の意義がどちらにあるかを検討した。なお前年までの研究から、全種をプールした場合、再生シュート重量は堅果重量に対して比例以上に大きくなること、萌芽再生力の堅果サイズ依存性が顕著だったクヌギ、アカガシ、コナラでは種内でも同様の傾向があることが明らかになっている。

6種全体をプールした場合でもすべての種内でも、展葉完了時のNSCは堅果重量が大きいほど比例以上に多くなり、比例係数はRSBよりも大きかった。スダジイ以外のすべての種で、切除前に比べて再生個体では、RSBに変化はないがNSC濃度は低下した。偏相関分析によれば、切除後の再生シュート重量は、クヌギとコナラでは切除前のNSCと正の相関があった。一方無損傷の場合の地上部重量は、全種をプールした場合とほとんどの種内で、同時点のRSBとの正の相関が強く、全種のプールでは同時点のNSCとは負の相関が検出された。

本研究から、当年生実生の根のNSCは損傷後の萌芽再生や生命維持に利用されていると言える。また堅果重量が増すと相対的にNSC含量を増やしていたことから、大きな種子を生産する意義は、無損傷の場合の健全成長パフォーマンスを高めることよりも、むしろ損傷した場合のリスク回避力を高めることにより強くあると示唆された。ただし、これらの傾向に当てはまらない種も存在したため、今後の研究でさらなる検討が必要である。


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