| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-306 (Poster presentation)
交尾器形態は急速に多様化し,種間の生殖隔離にも関与するため,種多様性の創出・維持機構を理解する上で重要である.オオオサムシ亜属では,雌雄交尾器形態が種間や種内の集団間で著しく多様化している.雄の交尾片はキチン化した突起で,交尾の際に雌の膣盲袋と対応する.種間交尾では,交尾片と膣盲嚢のミスマッチが生じ,種間交雑が妨げられる.交尾器形態の多様化の一側面に巨大化があるが,その進化発生学的要因は十分に理解されていない.
オオオサムシ亜属の1種ドウキョウオサムシは,近縁種マヤサンオサムシと比べ極端に巨大な交尾器をもつ.両者の発生過程を比較した先行研究では,ドウキョウの巨大な交尾器の発生過程に,発生期間の延長,成長速度の増加,空間的制限の回避等の過程が関与すると示唆された.そこで本研究は,両者の中間的な交尾器サイズのウガタオサムシを対象に,蛹期における交尾器の形態形成過程をマイクロCT解析で調べ,巨大な交尾器を実現する複数の発生学的機構の進化過程の解明を試みた.
交尾片はサイズによらず4日齢から発生が開始した.ドウキョウの蛹期は1日長かったが,この間の交尾片の成長は僅かだった.よって,発生期間の延長は交尾器の巨大化に寄与していなかった.また,交尾片の成長速度は,交尾片が長い種ほど高かった.加えて,マヤサンとウガタでは成長速度が一定だったが,ドウキョウでは途中から加速したため,加速度的な成長が交尾片の巨大化に寄与したと示された.更に,発生初期に内部が密だった交尾片は,マヤサンでは8日齢,ウガタとドウキョウでは10日齢で中空になった.この事から,長い交尾片をもつ2種の高い成長速度に,長期的な内部組織の維持が関与する可能性が示唆された.ドウキョウで見られた交尾片の折畳み構造は他の2種で見られなかったため,交尾片の成長に対する空間的制限とその回避に関わる発生過程は,巨大化に伴い生じたと考えられた.