| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-307 (Poster presentation)
島の成立以来一度も大陸と接続を持ったことのない海洋島には、固有種が数多く生息している。典型的な海洋島である小笠原諸島の固有種オガサワラシジミ(シジミチョウ科)は、2018年を最後に野生個体が見つかっておらず、2020年に全ての生息域外保全個体が繁殖途絶したことから、現時点で絶滅の可能性が高いと考えられている。本研究は、オガサワラシジミの長期間にわたる有効集団サイズの動態と系統的独自性を評価し、絶滅によって失われようとするオガサワラシジミの進化史を明らかにすることを目的とした。
過去の有効集団サイズの動態を推定するため、次世代シーケンサーを用いてオガサワラシジミ4個体の全ゲノムリシーケンスを行った。得られた配列を用いてPSMCおよびMSMCを実施した。その結果、オガサワラシジミの有効集団サイズには約100万年前から約10万年前における推移、約10万年前から約4万年前の増加、その後の約4万年前から約200年前のゆるやかな減少が認められた。
系統的独自性を明らかにするため、全ゲノムリシーケンス配列から抽出したオガサワラシジミを含む1属3種のミトコンドリアゲノムCOI領域の配列、サンガーシーケンスで得た近縁種1種のCOI配列、NCBIから取得した近縁種12属27種のCOI配列から系統解析と分岐年代推定を行った。その結果、オガサワラシジミを含むルリシジミ属の単系統性が認められた。ルリシジミ属内は種の分布に対応した3つのクレードに分かれ、オガサワラシジミは全てのクレードから独立していた。分岐年代推定では、オガサワラシジミは属内の東南アジアの種群からなるクレードから約800万年前に分岐したと推定された。
オガサワラシジミは種分化して以降、200年前まで大きな有効集団サイズを維持してきたが、現在では絶滅した可能性が高い。このようにオガサワラシジミユニークな系統であることから、本種の絶滅は長い固有の進化史が失われることを意味している。