| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-308 (Poster presentation)
共進化は生物進化の大きな駆動要因の一つである。宿主‐共生関係においては、共生生物はしばしば宿主と進化の歴史を共有し、種分化や共分散が起こる。したがって、特に絶対共生の関係においては、共生生物の系統や分布パターンは宿主のパターンを反映するはずである。ニホンザリガニ(以下、ザリガニ)は生息河川ごとに遺伝子が異なり生息域でおよそ地理的に連続した遺伝的構造を持ち、日高山脈を境にした東西のグループで遺伝的に別種レベルに分かれる。ヒルミミズ類はザリガニの絶対共生生物であるが、日本に11種と多種存在しその進化の背景は全くわかっていない。本研究では、ザリガニとヒルミミズ類がどのような歴史を共有し互いに進化してきたのかを調べた。
北海道の48箇所と本州北部の20箇所でザリガニとヒルミミズの調査を行った。ヒルミミズは顎板形態を元に種同定し、mtDNAのCOI(333配列)と16SrDNA(197配列)、nDNAの28SrDNA(56配列)とITS1領域(45配列)を解析した。また、mtDNAに関して、それらを宿主の系統関係と比較した。
形態から10種のヒルミミズが特定され、そのうち8種の推定分岐年代はザリガニの日本への予想侵入時期よりも古かった。ヒルミミズの遺伝構造は種によってそのパタンに違いがみられた。C. cirratus complexとC. sapporensisでは、種内の遺伝的構造は地理的に連続であり、宿主同様日高山脈を隔てた東部と西部では遺伝的に大きな分化が見られた。また、宿主の系統関係や推定分岐年代とも一致した。しかし他の種では種内の遺伝的構造は地理的に連続ではなく、地域間の分岐年代も宿主のものと一致しなかった。
本研究から、日本産ヒルミミズ類はザリガニの日本への侵入以前から高い多様性を保っており、少なくとも2種のヒルミミズではザリガニと同様の歴史を持つことが示唆された。これはヒルミミズがザリガニに乗って分布を広げる共分散が起きた強い証拠だが、彼らの進化史にはまだ謎が多いことも事実である。