| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-309 (Poster presentation)
動物と異なり自由に移動することができない植物では、毒性のある物質を生合成することで植食動物から身を守る種が多く存在する。分解されると有毒な青酸ガスを発する青酸配糖体は、マメ科植物を初めとする広い系統で生合成される物質である。一方、植食者の一種である昆虫では、植物の持つ青酸配糖体を体内に蓄えて防御物質として利用する系統の存在が知られている。さらに興味深いことに一部の鱗翅目昆虫ではアミノ酸からこの物質を生合成する能力を獲得したことの報告がある。このことは植物と一部の鱗翅目昆虫は、被食防御機構として独立に青酸配糖体の生合成経路を獲得したことを示唆している。これまでに、青酸配糖体は鱗翅目と植物の両方で2種類の P450 と1種類の UGT という酵素が関与する一連の反応によって生合成されることが明らかにされてきた一方で、植物と鱗翅目という離れた系統間で共通の化学的防御機構が発達した過程や、鱗翅目昆虫の中でこの生合成経路を持つ系統がどの程度存在するのかは未だ不明である。本研究では、青酸配糖体生合成に関与する酵素とそのオーソログのアミノ酸配列を基に、系統解析と酵素の立体構造比較、基質とのドッキングシミュレーションを行い、青酸配糖体生合成能の獲得に重要と考えられる収斂進化したアミノ酸を探索した。その結果、植物と鱗翅目の生合成に関与する酵素間で収斂したアミノ酸が複数見つかり、これが生合成能の有無に関与する可能性を考えている。また鱗翅目昆虫について遺伝子発現解析を行い、発現量や青酸配糖体生合成経路を構成する遺伝子と他の遺伝子の発現パターンを比較することで、生合成能の有無の推定や他の形質との関連性も調べた。発表では解析結果の詳細を報告し、アミノ酸変異の影響や青酸配糖体生合成能の生態学的役割について議論したい。