| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨
ESJ71 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-310  (Poster presentation)

日本列島のツヤヒラタゴミムシ属における飛翔形質の進化と生息環境の関係【A】
Relationships between evolution of flight traits and habitat environment in the genus Synuchus (Coleoptera: Carabidae) in Japan.【A】

*清水隆史, 久保田耕平, 池田紘士(東京大学)
*Takashi SHIMIZU, Kôhei KUBOTA, Hiroshi IKEDA(The University of Tokyo)

 甲虫における飛翔能力の退化は種や生態の多様化をもたらした。この進化は、飛翔頻度の減少→飛翔筋の退化→後翅の退化の順に生じ、退化の過程で飛翔形質に種内多型が生じる。飛翔形質の種内多型に関する研究は、飛翔能力の退化がどのように生じるかを詳細に解明できるという点で重要である。
 また、甲虫における飛翔能力の退化には、生息地における様々な環境要因が影響する。安定性や永続性の高い環境ほど飛翔能力の退化が生じやすく、特に森林はそのような特徴を持つ代表的な環境である。したがって、森林に特異的に生息する種では、特に飛翔能力の退化が生じやすいかもしれない。
 オサムシ科に属するツヤヒラタゴミムシ属では、多くの種で飛翔形質に種内多型があり、属内で様々な退化段階の種が混在する。また、多くの種は森林性であり、特に山地の森林に生息する種では、飛翔能力が完全に退化している。これらを踏まえると、本属は、甲虫における飛翔能力の退化と生息環境との関係性を検討する上で優れた材料である。そこで本研究では、本属における飛翔能力の退化プロセス、及びこの退化プロセスと生息環境の関係を明らかにすることを目的とした。
 研究には、日本列島110地点から収集した22種781個体を用いた。ミトコンドリア遺伝子COI領域と核遺伝子28SrDNA領域、CAD領域を用いて分子系統解析を行い、飛翔形質の祖先復元を行ったところ、本属の飛翔形質の退化は複数の系統で独立に進化してきたと考えられた。次に、気温や降水に関する環境変数を用いた生態空間解析を行ったところ、飛翔能力が完全に退化した種の方が、形質多型種よりもニッチが狭く、より寒冷で多湿な森林に分布が制限されていた。本発表では、本属における好適ニッチの進化過程も推定するとともに、飛翔形質と生息環境の関係性について系統種間比較法を用いて解明することで、本属における飛翔能力の退化と生息環境の関係を議論する。


日本生態学会