| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨
ESJ71 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-312  (Poster presentation)

イトヨにおける尾びれ鰭条の種内変異とその発生機構【A】【O】
Developmental mechanism underlying intraspecific variation in caudal fin ray branching in three-spined sticklebacks【A】【O】

*玉井滉基, 石川麻乃(東京大学)
*Kouki TAMAI, Asano ISHIKAWA(The University of Tokyo)

魚類のひれは水中における姿勢制御や遊泳に必要である。中でも尾びれは、主に遊泳時の推進力を生み出すために用いられ、幅広い系統で多様な形態を進化させてきた。しかしこの多様化の背景にある分子遺伝機構の多くは明らかにされていない。そこで我々はトゲウオ科イトヨをモデルにこの解明に取り組んでいる。イトヨは元々海水魚だが、湖沼や河川などの異なる淡水域に繰り返し進出し、鱗板や背トゲ、腹トゲなどが多様化した多くの淡水型が進化した。そこで遊泳に重要な尾びれも、流速や水深などが異なる様々な生息地に棲む個体群間で多様化していると予想した。日本と北アメリカの11の個体群を用いた形態学的解析の結果、イトヨの尾びれ鰭条の分岐パターンに種内変異があることを発見した。特に岐阜県の淡水型個体群では、他の個体群よりも、尾びれの2回目の分枝を持つ個体の割合が有意に高かった。この2回目の分枝を持つ鰭条により、鰭膜が力強く支えられ、尾びれが水をより効率的に押し出すことができている可能性がある。次に、岐阜県の淡水型個体群ではいつ2回目の分枝が生じるかを調べるため、サイズの異なる野生個体の尾鰭の分枝パターンを解析した。その結果、2回目の分枝は、受精後5カ月以上は経過したと推定される35mm以上の成魚で見られた。さらに、2回目の分枝を持つほぼ全ての個体は、分枝が起きうる10本の鰭条全てで1回目の分枝が生じていた。このことから2回目の分枝は、単に1回目の分枝の後に生じるのではなく、1回目の分枝が全て揃うことを条件に生じると示唆された。今後は、岐阜県の淡水型個体群と尾びれ鰭条の分岐パターンの異なる他地域の淡水型個体群の交雑個体を用いたQTL解析や、分枝形成過程のトランスクリプトーム解析など行い、尾びれの多様化を生む原因遺伝子・ゲノム領域を同定する。


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