| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-320 (Poster presentation)
局所適応は生物の多様性を生み出す重要なメカニズムである。局所適応と多様化の関係は主に極端な環境間での対比によって追究されてきた。一方で、連続的で普遍的な環境においても局所適応が働いている可能性がある。普遍的な不均質環境におけるきめ細やかな適応を明らかにすることは、生物の多様な環境への進出と多様化を支える潜在的基盤の理解につながる。本研究では、関東平野に固有な純淡水魚であるクロダハゼに注目した。クロダハゼは河川から止水域まで幅広い淡水環境で見られ、種内の多様化を通じてこれらの環境に適応している可能性がある。まず、クロダハゼの遺伝背景を明らかにするために、分布域網羅的な22地点の計107個体のサンプルから、MIG-seq法によって取得したゲノムワイドSNPおよびmtDNAの部分塩基配列を用いて集団構造を推定した。その結果、種内での明瞭な集団分化は認められなかった。次に、形態と行動の2つの観点から、河川・止水環境における種内の多様性とその適応的意義を検証した。関東地方の16地点(河川7、止水9)から計167個体の標本を得て標本写真を用いた幾何学的形態測定と代表的な形質の計測を行った。その結果、河川群に比べて止水群は体サイズが小さく、より細長い体型をしていることがわかり、止水群の形態は浮遊・遊泳生活に適したものである可能性が考えられた。2水系の8地点(河川5、止水3)から得た計96個体を用いて水槽中で生体の行動を撮影し、空間利用の特徴を両群間で比較した。その結果、止水群は鉛直方向の空間をより頻繁に利用し、一方、河川群は底面をより多く利用していた。これは、止水域では鉛直方向の空間が広いのに対して、河川では流水により鉛直方向の空間の利用が制限されるという環境特性の違いに対応していると考えられた。以上のことから、クロダハゼは種内で幅広い淡水環境に反復して適応している可能性がある。