| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨
ESJ71 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-321  (Poster presentation)

トゲウオの環境ストレスに対するトランスクリプトーム応答性の進化【A】
Divergent transcriptome responses underlying different tolerance to multiple environmental stresses in sticklebacks【A】

*原田慧, 石川麻乃(東京大学)
*Kei HARADA, Asano ISHIKAWA(The university of Tokyo)

生物が1つの祖先種から、様々な形態、生理的形質を示す多数の種へと急速に多様化する適応放散の引き金の一つが、新規ニッチへの進出である。では、新たな資源や生息地に適応する過程ではどんな遺伝子が関与しているのか?その多くは明らかにはなっていない。イトヨ近縁種は新規ニッチ進出の分子機構を解明するために最適なモデル生物の1つである。イトヨ祖先種は海水域に生息しており、約68万年前にイトヨ(Gasterosteus aculeatus)とニホンイトヨ(G. nipponicus)に分岐した。イトヨは海水域から淡水域に進出したのに対し、ニホンイトヨは海水域にのみに生息している。私たちは近年イトヨとニホンイトヨの生存率が高度不飽和脂肪酸欠乏条件下において異なり、それはイトヨが高度不飽和脂肪酸合成酵素fads2のコピー数を多く持っているためであることを報告した。しかし、新規ニッチ進出はこれ以外にも多くの環境変化を伴い、それらに対するストレス耐性の違いが新規ニッチ進出能力に寄与している可能性がある。そこで、本研究では新規ニッチ進出能が異なるイトヨ近縁種を様々な環境に曝露し、異なる環境ストレス耐性に寄与する遺伝子を同定する。まず、16℃、長日条件、海水環境、海産餌給餌したコントロール群に対して、イトヨとニホンイトヨを低温、高温、低浸透圧、高度不飽和脂肪酸欠乏、短日条件に約1年間曝露すると、ニホンイトヨはイトヨよりもコントロール群、高度不飽和脂肪酸欠乏、低浸透圧、短日条件群では生存率が低い一方、低温、高温群では生存率が高かった。次に各環境条件下で肝臓でのRNA-Seqを行うと、トランスクリプトームは種間でも環境条件間でも異なった。これらの結果からイトヨとニホンイトヨは異なる環境ストレス耐性を有し、様々な環境に曝露されることにより、種特異的な発現変動を示す候補遺伝子が存在することが示唆された。


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