| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-322 (Poster presentation)
寿命は生物の基本的な生活史形質の一つであり、種によって大きく異なる。寿命の種間差は、異なる環境への適応や、生活史戦略に関わる生態学的、生理学的トレードオフにより形成される。脊椎動物では一般的に、体サイズの大きい種や代謝率の低い種ほど長生きである傾向が知られている。しかし飛翔能力を有する鳥類とコウモリでは、多くの種がその体サイズや高い代謝率に比して長い寿命をもつ。高い代謝によって生じる酸化ストレスは寿命を短くすると考えられるため、飛翔種の長寿はこの予測に反する。飛翔の獲得にともなって代謝や寿命の制御に関わる遺伝子が変化したと考えられるが、その実態は不明である。そこで本研究では、長い寿命と高い代謝の両立に関わる遺伝的変化を特定することを目的に、飛翔種において特異的な進化パターンを示す遺伝子を探索した。その結果、鳥類およびコウモリの系統で異なる進化速度を示す複数の遺伝子を特定した。鳥類では寿命制御に関わる既知のパスウェイの遺伝子が他の種と比べて保存的であった。多くの保存遺伝子が Insulin/IGF-1 の受容を起点とするシグナル伝達パスウェイ上にあり、酸化ストレス耐性に関わるパスウェイが純化選択下にあることが示唆された。鳥類とコウモリで共通して加速的あるいは保存的な遺伝子には、特定の機能やパスウェイへの偏りはみられなかったものの、寿命や活性酸素種の制御に関わると考えられる遺伝子が含まれていた。また、鳥類とコウモリで収斂アミノ酸置換が生じた遺伝子を探索し、がんや活性酸素種の制御に関わると考えられる遺伝子で収斂アミノ酸置換があることを明らかにした。本研究は鳥類とコウモリの飛翔の獲得にともなう遺伝的変化を明らかにし、寿命や代謝の制御に関わる複数の遺伝子が飛翔種の高い代謝と長寿の両立を支えていることを示唆した。