| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-323 (Poster presentation)
日本産ラン科エビネ属は約20分類群のうち、19分類群が環境省レッドリストで絶滅危惧種に指定されているが、保全の基盤となる種レベルの系統情報には不明な点が残されている。一般に種レベルの系統解析では、葉緑体ゲノム解読やRAD-seq法、RNA-seq法がよく使用されるが、葉緑体キャプチャーの影響で種の系統が正確にわからないこと、大きいゲノムサイズ(約10G)により共有座が得られにくいこと、野外でRNAサンプリングが困難な希少種が存在することで、エビネ属の種間関係解明にはこれら手法を適用できない。そこで本研究では、日本産エビネ属18分類群44サンプルを対象に、改良エキソームキャプチャー法によって、核ゲノムの転写配列を網羅的に解読し、獲得した1813座230万塩基の配列情報を基に系統解析を行った。その結果、構築した系統樹は、すでに報告されている約4千塩基の核・葉緑体ゲノム領域に基づく系統樹と概ね一致するトポロジーを示したが、3つのクレードでは系統的位置づけを見直す必要性が提起された。(1)形態的特徴から広域分布種ツルランの最近縁種または亜種と考えられた小笠原固有のホシツルランと、ツルランとトクサランに近縁と考えられてきた小笠原固有のアサヒエビネの2種は最近縁であることが示唆された。(2)従来キリシマエビネに近縁と考えられていた伊豆諸島固有のニオイエビネは、キリシマエビネとサクラジマエビネに最近縁であることが示された。(3)エビネとその亜種(奄美固有のアマミエビネ、徳之島固有のトクノシマエビネ、沖縄固有のカツウダケエビネ)の系統的独自性は不明であったが、系統的に近縁であることが示唆された。本研究では、ゲノムサイズの大きなエビネ属の多数サンプルから、改良エキソームキャプチャー法によって核ゲノム情報を抽出することで、信頼性の高い系統樹を構築し、保全に必要な基礎情報を得ることができた。