| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨
ESJ71 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-326  (Poster presentation)

多反復細菌群集の統計解析から確率論・決定論過程を定量的に理解する【A】【O】
Understanding both stochastic and deterministic processes through statistical analysis of massive repeated data of actual microbial communities【A】【O】

*林息吹, 東樹宏和(京都大学)
*Ibuki HAYASHI, Hirokazu TOJU(Kyoto Univ.)

細菌群集は、土壌・水圏・腸内など、環境を問わず見られる普遍的な存在であり、その応用可能性・生態系における重要性から、細菌群集を対象とする研究は増加している。そして、各研究によって集まりつつある大規模な並行観察データから、各群集が限られたパターンの群集構造(代替的な群集)に遷移している可能性が提案されている。このことから、代替的な群集への遷移を引き起こすプロセスを理解することで、細菌群集が持つ性質の解明へ大きく近づくと考えられる。
また、発表者のこれまでの研究から、同一の群集を大量に反復観察することによって、各反復が代替的な群集へ遷移する場合があることがわかった。これは、各種の性質や栄養条件などの決定論的な要因だけでなく、反復間の初期値の小さなズレや遷移中の浮動などの確率論的な要因も、代替的な群集の創発に重要であることを示唆している。その中で、各プロセスが代替的な群集の遷移に寄与した割合を定量するために、各反復群集が「どの程度」代替的な群集に遷移しているのかを解析する必要性が見えてきた。しかし、本研究が扱う細菌群集データをはじめとする多くの群集データは、多種の情報を記述する多次元なデータであるため、その代替性を評価することは容易ではなく、解析的な手法は未発達である。
今回、反復群集全体がもつバラツキ度を、帰無的なモデル群集がもつバラツキ度と比較を行う、反復群集間の非類似度が従う統計的な性質を利用した新たな手法を考案した。そして本手法を、1:複数の培地条件における実験反復群集、2:複数の初期密度における実験反復群集、3:シミュレーション群集、に現れた代替的な群集に対して適用した。さらに、非階層クラスタリング+分散分析を組み合わせた方法と上手法を比較することで、新手法の妥当性を議論するとともに、代替的な群集創発に対して、確率・決定論両過程がどのような影響を持つかを考察する。


日本生態学会