| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-327 (Poster presentation)
昆虫では、オスがメスよりも早く羽化する種が一般的である。チョウなどでは、メスが羽化直後に交尾を済ませ、その後オスを受け入れなくなることが知られている。このような場合、オスにとってメスより早く羽化してメスを待ち受けることは交尾の成功率を上げることにつながり、メスより早い時期の羽化がオスの戦略として進化すると考えられる。先行研究では、メスの一度きりの交尾とメスをめぐるオス同士の競争を考慮した数理モデルにより、オスの羽化パターンが説明されている。
一方で、古典的な理論では未だに説明できない羽化パターンが自然界には存在する。今回研究対象とする日本産オオウラギンヒョウモンFabriciana nerippeでは、通常の体サイズのオスと大きい体サイズのオスの2種類が観察され、それぞれ異なった羽化パターンを示す。通常の体サイズのオスはメスよりも早く羽化する一方、大きい体サイズのオスは、メスと同じタイミングで羽化する。本種のオスにおける羽化パターンがなぜ二型を有しており、どのような条件下で進化するのかは明らかになっていない。
本研究では、オオウラギンヒョウモンのオスの羽化パターンの二型が進化した要因を理論的に考察することを目的とした。大きい体サイズのオスは成長のために羽化が遅くなる代わりに、通常の体サイズのオスに比べてメスを巡る競争で優位になると仮定し、既存研究を拡張する形で新たな数理モデルを構築した。解析の結果、ある時刻で大きいオスと通常のオスの羽化が切り替わるという条件下では、オスの羽化パターンの二型を表現することができた。すなわち、体サイズの大きいオスはメスを巡る競争で優位になることで、本来不利であるメスと同じタイミングでの羽化が進化的に安定な戦略であることが示唆される。
今後は、博物館標本等実データを利用することで、本研究で新たに提案した数理モデルの妥当性を検証するために必要な課題に取り組んでいく予定である。