| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-338 (Poster presentation)
カンムリワシ(Spilornis cheela perplexus)は、石垣島と西表島に生息する固有亜種である。各島の生息数は約100羽ずつと推定され、環境省により絶滅危惧IA類に指定されている。石垣島では1978年に導入された外来種オオヒキガエル(Rhinella marina)が持つ致死的な毒が、カンムリワシを含む在来の捕食者へ悪影響を及ぼすことが危惧されている。一方、観察例からは、カンムリワシはオオヒキガエルを捕食するが、中毒症状を起こした例はない。同様の毒を持つヒキガエル類の自然分布域では、一部の捕食者が遺伝的に毒への耐性を持つと報告されている。カンムリワシも同様の耐性を持つと推察されるが、その遺伝的背景は不明である。本研究では、石垣島のカンムリワシの毒耐性に関する遺伝子の変異を解析し、オオヒキガエルが未定着の西表島の個体群と比較することで、 カンムリワシの毒耐性を検証した。また、個体群間の遺伝的背景も不明であるため、遺伝的な個体群構造の比較も行った。
西表島4個体、石垣島3個体の全ゲノム配列を解読し、集団遺伝学的解析を行った。先行研究では、ATPase Na+/K+ transporting subunit alpha 1(ATP1A)遺伝子のアミノ酸置換がヒキガエルの毒への耐性に関わると報告されている。そこで、既存のカンムリワシの参照配列から、ATP1Aのパラログの特定と変異の確認をした。さらにATP1Aのアミノ酸配列を個体群間で比較した。
集団遺伝学的な解析では両島の間に遺伝的に顕著な個体群構造は見られなかった(Fst = 0.103)。一方で、PCAやADMIXTURE解析ではベストモデル(K = 1)ではなかったが、各島に由来する個体群構造(K = 2)が見られた。両個体群ともATP1Aのアミノ酸配列に毒耐性を示す変異があり、多型はなかった。以上の結果から、カンムリワシは、ATP1Aについて種として毒耐性を保持していることが示唆された。ただし、毒耐性には他の遺伝子も関与することがわかっており、今後は解毒に関わるCytochrome P450遺伝子の解析も行っていく。