| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-340 (Poster presentation)
都市はヒトと物の出入りが頻繫であるため、外来種が侵入しやすい系である。これら外来種の侵入は在来生態系に直接的な害をもたらすだけでなく、外来病原体の随伴侵入によって不要な感染を招く場合や、在来病原体の新たな宿主として機能し、侵入先における感染動態を変化させてしまう恐れがある。病原体の中にはヒトに感染しうるものも含まれているため、都市部への人口流人と依存が進む中において、感染リスクを抑えるような街のありかたや開発の方向性を「都市×外来種×病原体」の目線で理解していく必要がある。
国内の都市部に定着しつつある哺乳類として、クリハラリスなどの外来リス類があげられる。外来リス類は人獣共通のウイルスや細菌を媒介する様々な外部寄生虫を在来外来問わず保有しており、近年の個体数増加や分布拡大に伴うこれらベクターへの影響が懸念される。そこで本研究では、都市から郊外へと外来リス類が分布拡大し続けている静岡県浜松市をモデルに、初期の導入地点から分布拡大の前線にかけて外部寄生虫の保有状況を調べ、種組成や空間分布の変異を明らかにした。
検体は、2019年6月から2021年1月にかけて市内複数地点で害獣駆除された個体とした。各検体は捕獲後直ちに冷凍され、麻布大学に輸送、解凍後に剃毛処理された。実体顕微鏡下でこれらの毛を部位別に観察し、得られた外部寄生虫サンプルについては簡易標本を作成して可能な限り種を判別した。
計15地点188頭を検査し、47頭から飛び地的に外部寄生虫を得た。今回、他地域で報告のある外来の外部寄生虫は見られず、虫体は全て在来種に該当した。都市部では家ネズミ類に由来すると思われるノミ類が、郊外では雑木林の哺乳類に由来しうるマダニ類やツツガムシ類が認められ、定着先にどのような宿主動物が先住しているかによって注意すべきベクターの組成が変化しうることが示唆された。