| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨
ESJ71 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-341  (Poster presentation)

ウチダザリガニの腹肢除去による生存率及び不妊化への影響【A】【O】
Effects of signal crayfish pleopod removal on survival and sterility【A】【O】

*Junya SAITO(Hokkaido Univ.)

本研究では特定外来生物ウチダザリガニの不妊化に転用できる可能性のある事象を検証する。北米原産のウチダザリガニは、食用目的で日本やヨーロッパ各国に持ち込まれた。その低水温耐性や大きな体、攻撃性を武器に生息域を急速に拡大し、最近では北海道のみならず本州においてもその侵入域を広げている。外来ザリガニは淡水生態系に対して大きな影響を及ぼすことが知られており、ウチダザリガニもその例に漏れず、在来生物に対しての食害やニッチの競合が発生・懸念されている。現在主流の罠を用いた駆除だけでは個体群を減少させることが難しいことが知られており(原因:捕獲サイズの偏り、法規制などの問題)、新たな手法を検討する必要がある。罠を用いた駆除の弱点を補完できる手法として“不妊化個体の再放流”がある。この手法は種特異性や効果の高さから実用的な新規手法として期待できる。そこで私はメスザリガニの抱卵という、卵を孵化させるための行動に着目した。メスザリガニは腹肢と呼ばれる器官を用いて卵を腹に抱える。この腹肢を除去すれば抱卵数が減ると推測される。そこで本研究ではウチダを対象に腹肢の除去が生存率を有意に損なわせることなく、再生産能力の低下を引き起こすか明らかにすることを目的とした。研究は飼育実験により未処理群と腹肢除去群を比較することで行われた。実験の結果、①腹肢の除去は生存率に影響しない、②腹肢除去直後の脱皮は大きな修復効果を果たさない、③腹肢の除去は当年の抱卵数を顕著に減らすということが判明した。本結果は、腹肢の除去がウチダに対して直接生存を脅かすような影響は及ぼさず、再生産効率を顕著に下げる効果を持ち、効果もある程度持続することを示唆している。まだ検証が必要な点はあるものの、腹肢除去には不妊化技術としてのポテンシャルが十分あると考えられる。


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