| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-347 (Poster presentation)
人為攪乱によって成立する半自然草原は高い生物多様性を有するが、草原利用文化の衰退に伴い面積が大幅に減少し、草原性生物の多くが絶滅の危機にある。草原利用が継続される地域でも茅収量減少などの問題が生じており、適切な管理が求められる。草原管理の中でも野焼きは多面的に草原維持に寄与するが、様々な理由により実施が制限されることも多い。そこで本研究は、野焼きを行わずとも同等の効果を持つ代替的管理方法を提案し、茅生産と種多様性に対する影響を検証した。
本研究は2004年以降茅場として使われる茨城県つくば市の高エネルギー加速器研究機構内草原で実施した。野焼きの代替的方法は灰散布、ケイ酸散布、リター除去を行い、対照区を含めた4処理区において植生調査、相対光量子密度測定、地上部乾燥重量推定を実施し、各処理間で比較した。
調査地にはススキが優占し、チガヤ―ススキ群落に近い群落構成種が見られた。また、茨城県絶滅危惧II類のコヒロハハナヤスリが出現した。処理による多様性への影響は限定的だったが、灰散布では5月の地上20 cmの相対光量子密度が有意に減少し、多様度指数との間に正の相関があった。灰によって植物が成長し、光環境の不均一性が増加したためと考えられる。ケイ酸では相対光量子密度の低下はなかったが多様度指数との正の相関があった。処理による不均一性増大が多様性に影響したものの、ケイ酸によって光環境への負の影響が抑えられたためと考えられる。また、灰散布ではススキの推定地上部現存量に増加する傾向が見られた。
以上より、灰散布がススキの増加による茅生産性改善には有効であるが、植物の種多様性には光競争による負の影響があることが示唆された。ケイ酸やリター除去だけでは影響が小さいことも明らかになった。野焼きの代替的管理を行う際は灰散布を中心にしつつ、光競争による種多様性への影響を低減する配慮が必要だと結論づけられた。