| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-349 (Poster presentation)
多摩川では大規模な砂利採取や治水工事などが行われてきた。約50年前からハリエンジュをはじめとする高木により樹林化が進行し、砂礫質河原は減少し続けてきた。かつては、カワラノギクやカワラハハコなど河原固有の植物も多く生育していたが、現在では絶滅または絶滅に近いほどにまで個体数は減少した。多摩川におけるカワラバッタの研究は、野村・倉本(2005)の標識再捕獲法を用いた生息地間ネットワークの研究が代表である。しかし、それ以来詳細な研究が行われることなく今に至る。そこで本研究では、多摩川中流域におけるカワラバッタの現在の分布状況を把握するとともに、植物群落との関わりを考察することを目的とした。
多摩川河口から48~56kmの間に存在した14ヵ所の砂礫質河原を調査地とした。踏査により生息の有無を確認し、地図上では生息地に300mと810mの2つのバッファを生成した。また生息地では、コドラート法を用いて群落調査を行った。
調査地14ヵ所のうち、生息地は9ヵ所、非生息地は5ヵ所であった。また2つのバッファより、4つの地域個体群に分断され、孤立していることが明らかとなった。野村・倉本(2005)では、2つの地域個体群であったことから、地域個体群の分断が進行していることが示唆された。過半数の生息地でみられたエノコログサ属ssp. 、コセンダングサ、ヒメムカシヨモギ、ツルヨシ、マルバヤハズソウ、メマツヨイグサ、コニシキソウが植被全体の約3/4を占めていた。河原固有種は、カワラノギクとカワラニガナがそれぞれ2ヵ所でみられたのみであった。
多摩川中流域において、孤立した4つの地域個体群は絶滅の渦に巻き込まれている可能性がある。河原のフロラが入れ替わっているため、カワラバッタの主な餌植物は河原固有種ではなくなったと考えられる。群落調査で多く出現した種について、野外観察や採餌実験などを通して関係を明らかにする必要がある。