| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨
ESJ71 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-353  (Poster presentation)

屈斜路湖畔の地下水流入地点の推定ーヒメマス産卵集合との関連ー【A】【O】
Estimating the groundwater inflow points on the shore of Lake Kussharo  - relationship with kokanee salmon spawning aggregations -【A】【O】

*吉田有輝, 増田篤稔, 吉川朋子(玉川大学)
*Yuki YOSHIDA, Atsunori MASUDA, Tomoko YOSHIKAWA(Tamagawa Univ.)

 ヒメマス等のサケ科魚類は地下水が湧出している湖底や河床に産卵することが知られている.これは湧水が湖底に堆積する浮泥を除去することや,年間を通して一定の温度を維持しているためであるとされている.また,土壌から栄養塩の供給を受け金属イオン等の濃度が高くなることから,マリモ等の淡水性の緑藻類の生息域となっていることも報告されている.しかし屈斜路湖におけるヒメマスの産卵床と湧水との関連は詳しく調査されていなかった.そのため本研究では屈斜路湖のヒメマスの産卵床付近での湧水の存在について調査を行った.
 調査は,1)産卵床付近とそれ以外の場所の底質内の温度を比較することで湧水の有無を推定すること,2)水温・溶存酸素量の変化から湧水量を推定することを行った.9月の調査では,湖水の平均水温は23.2℃(23.0-23.5℃),産卵床付近にあたる30ヶ所の底質内5 cmの温度は平均18.4℃(8.5-22.9℃),離れた地点40ヶ所は平均20.8℃(16.1-23.3℃)であった.10月の調査は,産卵床付近6ヶ所と離れた地点6ヶ所の湖水水温は平均15.8℃(15.6-16.0℃),底質内5 cmの平均温度はそれぞれ12.4℃(8.4-14.5℃)と15.8℃(15.5-16.0℃)であった.産卵床付近は底質内の温度が湖水より低く,湧水が湧出していると考えられた.
 湖底に被せた容器内の水温と溶存酸素量の変化から推定した湧水量はそれぞれ24.0 m3/m2h,18.8 m3/m2hと異なった.溶存酸素量は付着藻類の光合成の影響を受けるため,水温を用いた推定の方がより適していると考えられた.9月と10月で底質内の最低温度はそれぞれ8.5 ℃と8.4 ℃とほぼ同じであり,湧水は年間を通して一定の温度を保っていると考えられる.このことから屈斜路湖が結氷する冬季においても,産卵床付近の水温は8 ℃前後に保たれると推察される.湧水は湖水に比べて溶存酸素量が低かったことから,ヒメマスが湧水を好む理由は,冬季も約8 ℃の温度が保たれることだと考えられた.


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