| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-354 (Poster presentation)
植生は、都市部の生態系機能および生態系サービスを規定する重要な要因であり、気候の調節やレクリエーションなど様々な便益を都市住民に提供する。そのため、都市における植生のパターンやその駆動因を明らかにすることは、都市生態系の理解及び人々の健康や福利の維持・向上の面から重要である。住宅の庭木は都市の植生の大部分を占める重要な要素であるが、庭木の分布や構造に関する知見(特に樹木の種レベルでの分析)は乏しい。そこで本研究では、庭内の植生構造と、居住者の社会経済的要因や庭の面積、周辺環境等の外的要因との関係を明らかにすることを目的とした。
本研究では、積水ハウスが有する庭木データ(都市圏の個人住宅で植栽された樹木種・本数・樹高のデータ)を用いて、各庭の植生構造(総樹木種数、総樹木個体数、在来樹木種数、在来樹木個体数)を定量化した。今回の研究では、庭の植生に影響を与える要因として、1.居住者の社会経済的要因(収入)、2.居住者の自然に対する意識、3.庭の面積、4.周辺の景観を想定した。居住者に関する要因は2022年に実施したアンケート調査により収集し、周辺の景観はGISを用いて評価した。その後、一般化線形モデルを用いて(目的変数:植生構造、説明変数:上記4つの要因)、変数間の関係を探った。
解析の結果、庭の植生構造は、今回考慮した全ての要因で予測できることが分かった。具体的には、自然に対する意識や年収が高い人が居住する庭や周囲に緑地が豊富な庭、また面積の大きな庭において、総樹木及び在来樹木の種数と個体数が多いことが示された。
以上、本研究は都市の樹木の分布を庭の面積や周囲の景観などの環境要因及び居住者の社会的要因によって説明できることを示した。この結果は、都市の生物多様性や生態系サービスを予測するうえで、人々の社会的要因を考慮するが重要であることを意味している。