| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-355 (Poster presentation)
小笠原諸島は日本の本島から南へ約1000kmに位置し、数多くの固有植物種が生育しているが、その約68 %が絶滅危惧種に指定されている。キキョウ科の小笠原固有植物オオハマギキョウ (Lobelia boninensis)は、人為的に持ち込まれたノヤギやクマネズミなどによる食害により個体数が減少しているため、これら植食動物の駆除や植栽等の保全管理が行われている。植栽による保全を適切に行うためには、種内の保全単位を明らかにする必要があるが、本種の空間的集団構造に関する網羅的な調査は行われていない。本研究では、現在本種の生育が確認されているすべての地点(聟島列島、父島列島、母島列島)の野生個体および父島の植栽個体を対象に、網羅的なサンプリングを行った。これらのサンプルに対しMIG-seq法による縮約ゲノム解読を行い、得られたSNPs情報に基づいて、遺伝的集団構造と系統関係を調べた。その結果、聟島列島・父島列島の個体群と母島列島の個体群はそれぞれ2つの異なる遺伝的クラスターに分類され、個体群間で有意な分化が認められたことから、地理的分布(島)に基づく2つの異なる保全単位の存在が示唆された。また、植栽個体は、これらが植栽されている父島とは異なる保全単位にあたる母島列島の向島の個体群に由来することが判明し、植栽個体と父島の野生個体との間で交雑が起こる可能性が示唆された。さらに、父島北部の個体が東島の集団に近縁であり、それらが地理的にも隣接していることからこれらの間で種子散布が行われていると考えられる。このことから、父島北部で植栽されている個体は東島の野生集団に対し遺伝子汚染をもたらす危険性も考えられる。父島南部(巽崎付近離島)では、異なるクラスターに属する個体群の遺伝的要素がほぼ同じ割合で混在していた。これは交雑に起因する可能性があり、この産地でのさらなる調査が必要である。