| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-357 (Poster presentation)
山岳湿原は、低温・過湿の特異な環境により、多くの固有種や希少種を包摂する。そのため、少ない陸地面積ながら、貴重な生物多様性を有するフィールドとして知られている。一方で、世界の山岳湿原の面積は年々減少しており、その要因の一つに木本種の侵入が挙げられる。これまでの研究から、木本種は湿原辺縁部から侵入することが知られているが、どのような環境要素に起因して侵入が促進されるかは明らかでない。また、木本種の侵入要因は、種によって異なる可能性が示唆されている。例えば、東アジアの山岳草原では、ササをはじめとしたタケ亜科の侵入が、特に脅威とされている。しかしながら、山岳湿原において、種別の侵入要因を研究した事例は極めて少ない。
本研究では、青森県八甲田山系に位置する湿原の辺縁部から中心部にかけて2m×6mのライントランセクト(1ラインにつき3プロット)を設置し、ササ/その他木本種それぞれの被度を決定する要因を調査した。181地点の各プロット内で、ササの被度/その他木本種の被度をそれぞれ応答変数に、計9つの生物/非生物要因を説明変数にした一般化線形モデルを用いて、被度と各要因の関係性を検証した。
結果、プロット内の地形の傾斜が緩やかで、植物種数が少ないほどササの被度は高まった。また、積雪量や土壌水分量が少ない地点ほど、その他木本種の被度が高まった。両者共通の傾向として、辺縁部から離れるほど高被度であった。これらの結果から、湿原辺縁部で木本種が繁茂する要因は、種によって部分的に異なることが示唆された。山岳湿原の保全に向けて、木本種別の効果的な管理対策が求められる。