| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-362 (Poster presentation)
遺伝的撹乱とは、人為的に持ち込まれた個体が在来個体と交配し、その地域における在来集団の空間的遺伝構造が変化することを指す。多くの野生生物において遺伝的撹乱が危惧されており、その要因の一つとしてペットや園芸目的による飼育 (販売) 個体の放逐や逸出が挙げられる。飼育個体が野外に侵入した場合、形態情報のみから特定することは困難である。そのため、集団遺伝学的解析により空間的遺伝構造を解明することは遺伝的撹乱個体の特定に寄与できるといえる。
カブトムシTrypoxylus dichotomus (コウチュウ目コガネムシ科) は日本で最も人気のある甲虫の一つであるが、それと同時に飼育個体の逸出による生態系や遺伝的撹乱のリスクについても危惧されている。しかし、日本国内におけるカブトムシの詳細な空間遺伝構造や遺伝的撹乱の実態は不明である。
そこで、本研究では日本全国 (北海道~沖縄県) からカブトムシの野生個体250匹と販売個体74匹を集め、ミトコンドリアDNAのCOII領域とMIG-seqによるゲノムワイド一塩基多型 (SNPs) による集団遺伝解析を行った。その結果、野生個体はミトコンドリアDNAのCOII領域においては遺伝的な差異は見られなかったが、MIG-seqによって得られた488のSNPsを解析した結果においては、弱いながらも空間的遺伝構造が見られた。野生個体と販売個体を比較した結果、販売個体の空間的遺伝構造は野生個体と大きく異なっていた。さらに、野生個体では地理的距離と遺伝的距離に正の相関が見られたが、販売個体では見られなかった。このことから、販売個体は本来の生息地と異なる場所で販売されていることが明らかとなった。販売個体が野外に逸出した場合、在来集団のさらなる遺伝的撹乱を引き起こすことが示唆された。