| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-366 (Poster presentation)
ムニンノボタン(Melastoma tetramerum)とタイヨウフウトウカズラ(Piper postelsianum)は小笠原諸島の固有種であり、絶滅危惧ⅠA類に指定されている。絶滅危惧種の個体が衰弱・枯死の危機にある際に遠隔で様子を知らせるシステムの構築が進められているが、未だにこの2種がどのような条件下で衰弱・枯死に至るのかは不明である。本研究では、水分と光の条件に着目し、実験によって栽培条件を変化させ、生育に適した環境や衰弱・枯死に至る条件を把握した。また、実験で得られた値をもとに島で生息する個体が置かれている環境条件の良し悪しを判定し、今後の保全方法を検討したい。
まず、水分に関しては灌水を萎れるまで行わない「灌水制限」、光に関しては遮光率90%前後の遮光ネットによる「遮光」の有無によって4つ実験設定を行い、栽培実験を実施した。その結果、ムニンノボタンでは水分と光の条件を制限することで、葉面積と樹高の成長率が抑制された。タイヨウフウトウカズラでは灌水制限による成長阻害が生じ、初期しおれ点を迎えても灌水しないと枯死した。葉の黄変やしおれが生じた際の土壌含水率から、衰弱に関わる水分量を求めることができた。
次に、島の生息地において水分と光の条件を測定し、実験で得られたデータをもとに判定したところ、水分条件は十分に整っているものの光量が不足していることがわかった。また、ムニンノボタンの葉面積と光量の関係を調べたところ正の相関が見られた。葉面積については、個体の3Dデータをレーザーによって取得し、得られたデータのボクセル数から推定した。これより、ムニンノボタンは明るい場所の方が生育に適していると考えられる。
本研究により、母島にて急速に増加している外来種のアカギ(Bischofia javanica)の伐採やムニンノボタン生息地における枝打ちによる管理は2種の生育を改善すると考えられる。一方、光環境の改善によって土壌の乾燥が促進される危険もあるため、継続的なモニタリングが必要だと考えられる。