| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨
ESJ71 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-372  (Poster presentation)

ナガレホトケドジョウ嶺北集団の分布・形態・遺伝解析から推測される保全重要性【A】【O】
Conservation importance inferred from distribution, morphology, and genetic analysis of the Lefua torrentis Reihoku population.【A】【O】

*片山優太, 遠藤千晴, 澤田直人(京都大学)
*Yuta KATAYAMA, Chiharu ENDO, Naoto SAWADA(Kyoto Univ)

近年、福井県嶺北地方から発見されたナガレホトケドジョウ(Lefua torrentis)の嶺北集団は、本種の他の集団とは異なる形態およびミトコンドリアDNAの特徴を有することが指摘されている。本研究では、嶺北集団の分布域および形態的、遺伝的特徴を明らかにすることで、本集団の保全上の重要性を評価するための分類学的知見を蓄積することを目的とした。分布域調査では、福井県嶺北地方を流れる九頭竜川水系の165箇所の調査地のうち、11箇所で生息が確認された。九頭竜川で採集された個体数は極めて少なく低密度で生息しているのではないかと考えられ、また、生息範囲も極めて限られていることが分かった。形態解析では、分類学的に重要な頭部や胴部などの19形質について、嶺北集団との類似性がみられるナガレホトケドジョウの他集団(山陽、日本海、紀伊・四国)および近縁種であるトウカイナガレホトケドジョウ (Lefua tokaiensis)との比較を行った。その結果、嶺北集団は目が背側に位置し吻が長く扁平した頭部形態を有することで比較対象種・集団から明白に識別された。遺伝解析では、核DNAのリボソームS7サブユニット1stイントロン領域を用いて、属内の系統関係と遺伝的距離を調べ、さらに塩基多様度πを算出した。その結果、嶺北集団はナガレホトケドジョウの他集団や他種から顕著に分離されたクレードを形成し、塩基多様度πは低かった。したがって、ナガレホトケドジョウの嶺北集団は、属内の他種および他集団と比較して、形態的、遺伝的特性が大きく異なり明確に区別されるものの、生息地や個体数が限られ、また遺伝的多様性が比較的低く、保全上の重要性が高い集団であることが明らかとなった。また、嶺北集団でみられた特有の頭部形態は、魚類において地下浅層の間隙環境などへの適応と関連する特性であると思われることから、本集団は属内の他種とは異なる生活史を有する可能性が示唆された。


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