| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-382 (Poster presentation)
この研究は,2018年の北海道胆振東部地震で被災した厚真町の斜面崩壊地域において,残された生物学的遺産(レガシー)の空間分布を画像認識モデルで推定することを目的とした.国土地理院が災害後に撮影した20cm解像度の正射画像を使用し,Q-GISを用いて崩壊斜面内のレガシーを目視で識別した.影の領域内のレガシーは推計から除外し,画像を25×25ピクセルのパッチに分割することで,35,257枚の教師データを作成した.
複数の画像認識モデル (CNN,Vision Transformer,MLP-mixer) をアンサンブルしたレガシー分布推定機MiCを構築した.これらのモデルは,教師データを緯度経度からk-means法で10分割し,入れ子交差検証でハイパーパラメータの最適化を行い,RMSEで交差検証誤差を評価した.最終的に,構築した推定機で厚真町全域の崩壊斜面のレガシーの空間分布を推定し,ホットスポットを可視化した.
CNN,ViT,MLP-mixerの交差検証誤差は,それぞれ0.110±0.006,0.104±0.002,0.099±0.003であり,画像内の局所的な特徴に注目するCNNよりも大域的な特徴を重視するViTやMLP-mixerが高い精度を示した.MiCモデルの交差検証誤差は0.098±0.002となり,アンサンブルにより推定の精度が向上した.
MiCモデルで推定した厚真町のレガシーの空間分布によると,西部の山裾や山間部の谷底部など,崩壊斜面全体の25%では,5×5 mの領域内に25.1%以上のレガシーが存在すると推定された.これらの地形では斜面の表層崩壊に伴って斜面の上部から崩落してきた植生が堆積したことでレガシーのホットスポットとなったことが示唆された.一方で,北部や中央の山間部を中心とした25%の斜面では,画像内のレガシーが3.2%未満であり,レガシーが少ない地域が偏在していることが示された.
谷底部では倒木などを撤去し植林する特殊地拵えが実施されているが,レガシーを活用した自然再生も組み合わせた森林再生の検討,レガシーが少なく傾斜の急な山間部の緑化方法の検討がそれぞれ必要である.