| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-384 (Poster presentation)
生物多様性を客観的に評価するために、長期録音データを解析するための深層学習モデルの開発が盛んに行われている。指標生物の一つである鳥類では、欧米の研究機関が市民科学によって鳴き声のデータを全世界で収集し、六千種を超える種の判別が可能な大規模な鳥類識別モデルが開発された。しかし、鳥類以外の生物分類群では深層学習モデルの学習に十分な量のデータが集まっていないため、モデルの構築に困難を抱えている。このデータの不足の課題に対処する方法の一つとして、既存の深層学習モデルを新たなデータで訓練する転移学習がある。そこで本研究では、大規模な鳥類識別モデルのBirdNETを転移学習することで、日本国内に生息する鳥類,両生類,昆虫,コウモリを含む複数の生物分類群の識別が可能かどうかを評価した。
まず4つの生物音響データベースを作成した.それぞれ,千葉県で収集された1) 66種の鳥類と2) 16種の両生類・昆虫、3) 日本全国で収集された29種のコウモリ、4) 1) – 3) を統合した111種の鳴き声の4種類の正解ラベル付きのデータセットである。音声ファイル数はそれぞれ、9,719、764、1,414、11,897である。次に、それぞれのデータセットに対してBirdNETを転移学習させ,交差検証でモデルを評価した。転移学習では、鳴き声の特徴の抽出と埋め込みを行う層の重みを固定し、全結合層の重みのみを訓練した。
BirdNETを日本国内の鳥類の鳴き声の生物音響データベース1)で転移学習した結果,識別の精度を表す指標の一つであるF1 scoreは0.580から0.889に改善された.また,鳥類以外の生物音響データベース2), 3), 4)に対して転移学習した結果,F1 scoreはそれぞれ、0.981, 0.692, 0.848であった。特に,複数の両生類・昆虫では、少量のデータ数で高精度に識別できた。この結果から、BirdNETの転移学習はデータ数が限られている鳥類以外の生物分類群の判別に応用可能であり、生物音響モニタリングの効率化と生物多様性の評価に貢献できる可能性が示唆された。