| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-386 (Poster presentation)
農業の発展や都市化に伴い,自然の湿地は世界規模で減少している.日本では,水田,水路,ため池といった農村環境が,自然の湿地に適応した生物種の代替生息地として機能していた.しかし,省力化を目的とした圃場整備が行われ,水田ではパイプラインによる用水の導入,水路では三面コンクリート化のように,灌漑排水施設の効率化が進んでいる.その結果,多くの生物種が生息地を失い絶滅の危機に瀕している.
タナゴ類は,産卵基質として二枚貝類を利用するという特異的な繁殖様式を有し,河川,湖沼,水路に生息する純淡水魚類の総称である.日本におけるタナゴ類は人間による社会活動に伴った生息環境の劣化により,多くの種が絶滅の危機に瀕している.また,タナゴ類が産卵基質として利用する二枚貝類も同様の理由により,多くの種が各地で減少している.
岡山県に位置する祇園用水には多くの希少な水生生物が生息しており,それらの保全を目的として,祇園用水および周辺水路の一部では,護岸や底質に環境配慮が施されている.祇園用水および周辺の水路にはタナゴ類や二枚貝類が生息しているが,それらの分布状況や生息環境,環境配慮されている地点・されていない地点との関係は明らかになっていない.本研究では,祇園用水および周辺の水路における二枚貝類の分布状況や生息環境の特性を明らかにし,農業用水路におけるタナゴ類および二枚貝類の保全に関する知見を収集することを目的として,採集調査および物理環境の計測を行った.
調査の結果,祇園用水および周辺の水路に設定された17地点中13地点から,6種547個体の二枚貝類が採集された.一般化線形モデルを用いた統計解析の結果,護岸が環境配慮されていない地点より,環境配慮されている地点の方が個体数・種数ともに有意に多かった.農業用水路における護岸の環境配慮は,二枚貝類の生息環境を維持し,タナゴ類に産卵の場を提供している可能性が考えられる.