| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-387 (Poster presentation)
森林の天然更新を維持して植生の劣化を防ぐためには,ニホンジカ(Cervus nippon;以下「シカ」)が低密度のうちから,シカの採食が森林に与える影響を評価する必要がある.シカ低密度地域におけるシカの森林の影響評価には食痕率が有効であるが,落葉広葉樹と常緑広葉樹が混交する森林における研究事例はない.また,シカの採食圧を反映する指標種の利用は,モニタリングにかかる労力を軽減する.本研究はニホンジカ低密度地域である栃木県佐野市唐沢山(面積206ha)において,下層植生に対する採食影響を適切に評価できる木本指標種を明らかにした.
著者らは,2023年4月~6月に帯状区(4×25m)を50本,帯状区内に方形区(4×4m)を150個設置し,出現した木本種の樹種,樹高,個体数及び食痕の有無を記録し,それらの嗜好性を比較した.その結果,アオキ(Aucuba japonica),リョウブ(Clethra barbinervis),コアジサイ(Hydrangea hirta)が指標種の候補として選ばれた.さらにその3種の食痕率が,木本種全体の採食影響を反映しているかについて一般化線形モデルを用いて解析したところ,この3種が指標種として適していることが明らかとなった.
次に,植生調査のための帯状区をどのような環境に設置すればよいかを確かめるため,アオキ,リョウブ,コアジサイの生育環境を解析した結果,アオキは針葉樹林や明るい林床,または傾斜地に出現し,リョウブは明るい林床に出現していた.また,アオキとコアジサイは針葉樹林だけでなく広葉樹二次林にも多数出現し,リョウブは広葉樹二次林にのみ出現した.
以上のことから,シカ低密度地域においては,針葉樹林の指標種にはアオキとコアジサイを,広葉樹林の指標種にはアオキとコアジサイ,リョウブを提案する.