| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-390 (Poster presentation)
大気中CO2濃度上昇の抑制策として、生物的資源の低温炭化物であり高い炭素隔離効果を持つとされるバイオチャーが注目されており、重要な炭素吸収源である森林においても研究され始めている。その際、散布後の生態系応答のみならずバイオチャー作出から散布までの炭素排出も考慮する必要がある。そこで本研究では、ライフサイクルアセスメント(LCA)を導入し、包括的な炭素隔離効果を定量化することを目的とした。本LCAでは、各項目の炭素排出と炭素隔離効果を計算し、そこにバイオチャー散布に対する生態系応答(炭素吸収能の変化)を加味することとした。
日本で代表的な森林であるコナラ林・アカマツ林・スギ林において、粗大木質有機物(CWD)を材料としたLCAを考え、その中で集材・運搬・前処理・炭化・再運搬・散布・生態系応答の7項目を設定した。前処理・炭化では材のチップ化の有無・原料の含水率の違い・炭化方法の違いで、炭化率に差があるのか検証した。一方、その他の項目に関しては文献値等を参考にして考慮した。最終的に、作出から散布、生態系応答まで含めた全体の炭素隔離効果を推定した。
コナラ林でバイオチャーを1haあたりに10t散布する例を考えると、はじめのCWDに含まれていた炭素量を100とすると、LCA全体での炭素排出量は42.6と推定された。一方、バイオチャーの炭化率から炭素隔離量は58.6となり、炭素隔離効果の方が上回った。各項目を見ると、炭化時の炭素排出が40.4と大きかったのに対して、集材・運搬(再運搬)・前処理・散布における炭素排出は合計でも1.2程度と小さかった。生態系応答は、先行研究結果を踏まえると、本研究では生態系応答は0.4となった。本研究の結果、CWDを林地に放置して完全に自然分解させる従来の系(炭素隔離は0)と比較して、CWDの炭化及びその林地施用が炭素隔離に有効である可能性が示された。