| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-394 (Poster presentation)
新潟県佐渡市の生物多様性に配慮した稲作の現場では、畔に沿って承水路「江」が設置されており、中干期間中の水生生物の避難場として期待されている。一般的に水深は、水生生物や植生の分布に影響を及ぼす重要な要因である。水深の異なる江を造成することで、一枚の圃場内でも多様性が向上すると考えられる。そこで本研究は水深の異なる江を造成し、水質、水生昆虫群集に与える影響を調査した。
新潟県佐渡市小田集落の三つの圃場に、二本ずつ江を造成した。一本の江の内部に水深5㎝程度の浅い江と、15㎝程度の深い江を整備し、70×70㎝のプロットを設置し、5月から8月の4か月間、月に一度調査を行った。各地点で水質(水温、DO、EC、酸化ORP、pH)の計測、目視による植生被度記録、水生生物の掬い取り調査を行った。掬い取り調査で採集された水昆虫以外の種も、水生昆虫の餌資源や捕食者であり、その分布に影響を与えうるため解析に含めた。採集した水生生物をまず目ごとに分け、その後生息環境や食性に従ってさらに分け12の機能群に分類し、解析を行った。
水生生物の呼吸に重要な溶存酸素量は、浅い江と深い江で同様の季節変化を示したが、深い江の方が値の幅が大きく、内部に異なる水環境が形成されていたことを示唆した。植生調査の結果、調査期間を通して15科19種が確認された。水深の違いによって出現した植物種に差はみられなかったが、相対優占度は異なっていた。水生生物は、調査期間を通して14科22種、合計5867個体採集された。5月、7月、8月は深い江の方で、6月は浅い江で多くの個体数が出現した。6月はトンボ科の幼生やガムシ科成虫が浅い江で多く採集された。多変量解析の結果、水生生物の分類群の出現に影響を及ぼす環境要因として、水深に加えてEC、DO、水温、pH、植生被度が選択された。このように、水深の異なる江を造成することは、水生生物の存在様式に影響を与えていることが示唆された。