| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨
ESJ71 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-004  (Poster presentation)

オプトアウトを介した霊長類の協力の進化の数理研究【O】【S】
Mathematical study of the evolution of cooperation in primates through opting-out mechanisms【O】【S】

*黒川瞬(北陸先端大)
*Shun KUROKAWA(JAIST)

協力がいかに進化しえたのかは、進化生態学における中心的なテーマの一つである。協力者が他の協力者と相互作用しやすく、非協力者が他の非協力者と相互作用しやすい傾向がある場合、ポジティブ・アソートメントが生まれ、協力の進化が促進される。ヒトを含む霊長類の協力は、2者間の相互作用に限らず、時には大規模なグループでも観察される。Křivan & Cressman(2020)は、協力者と非協力者の2つの戦略の進化ダイナミクスを調査し、オプトアウトを伴う複数人ゲームにおける協力の進化を研究した。Křivan & Cressman(2020)の研究成果は、大きく分けて2つある。Křivan & Cressman(2020)の1つ目の研究成果は、パラメタによっては、協力者と非協力者が混在する2つの内部平衡点(片方が安定で、もう片方が不安定)が存在することの発見である。ただし、Křivan & Cressman(2020)の研究は、2人、4人といった比較的小さなグループサイズにしか焦点を当てておらず、グループサイズが5以上の場合に何が起こるのかについては未探究であった。本研究では、代数解析を行い、グループサイズが5人以上の場合には4つの内部平衡点が存在しうることを示した。Křivan & Cressman(2020)の2つ目の研究成果は、協力者のみまたは非協力者のみで構成されるグループは関係が続き、協力者と非協力者が混在するグループは解散するオプトアウトルール(以下、厳格なオプトアウトルールと呼ぶ)が協力の進化を最も促進するパラメタ領域と厳格なオプトアウトルール以外のオプトアウトルールが協力の進化を最も促進するパラメタ領域の両方が存在することの発見である。しかし、実際の生物が、どちらのパラメタ領域に該当するかについての議論は不十分であった。今回、実際の生物のグループサイズなどの実証データを用いた研究を行い、大きなグループで相互作用するヒトなどの種では、厳格なオプトアウトルール以外のオプトアウトルールが最も協力を促進することを明らかにした。


日本生態学会