| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-008 (Poster presentation)
生態系から得られる便益を生態系サービスと呼ぶが、人間が生態系から便益を得るためには、何らかの形で関わりを持つ必要がある。このような人と生態系の関係は文化、すなわち社会集団で共有される習慣や価値観等と捉えられ、生態系サービスの文化的サービスに位置づけることができる。これまでに人と生態系の関係によって生じた文化に関する様々な研究が行われてきた。しかし、人と生態系の関係によってサービスが得られ、新たに派生した文化が生じると考察はできても、実際の検証はできていない。理論的に、文化の形成には複数のステップが存在していると考えられる。生態系と文化の具体的な関係性やメカニズムを説明するには、これらの各ステップを部分に分けて検討する必要がある。本研究では、観光地を用いて訪問や近隣居住に注目し、生態系と生態系から生み出された文化形成のメカニズムを検討することを目的とした。中核市に位置する大学に通う大学生を対象にアンケートを用い、観光地への訪問の有無や、大切にしたい観光地、異なるスケールの自然環境への投資を仮定し自然に対する価値認識を尋ねた。解析の結果、居住地域における観光地では、地域住民がその場所を訪れ、その結果としてその場所を重要な場所と思うようになる可能性が示唆された。一方で、世界自然遺産は、訪問経験がない人々も重要な場所と考えていることが示された。訪問率が低い世界遺産が大切に思われている理由として、メディアバイアス等が存在している可能性が考えられた。投資額を尋ねた項目では、居住地のより近隣のスケールへの投資額が高いことが示された。しかし、首都圏等、交通網が発達している都市では国や都県への投資額も高くなる可能性が考えられた。今後は限定した条件を変え、文化形成に影響を与えている要因の種類や強さなどを、より詳細に明らかにすることが望ましいだろう。