| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-011 (Poster presentation)
自然の世界的な劣化に対して、自然と文化の両面の多様性の保全が求められている。生物多様性と生物文化多様性を繋いでいるのは、知識を含む無形の生物文化遺産(Biocultural assets and heritage)と考えられている。世代を超えて伝わる伝統知と地元コミュニティに特有な地域知は、生態系サービスや生態系管理の実践のために重要な知識基盤とされているが、世界的に見て情報収集が遅れている。日本では伝統知・地域知を有する使い手が高齢者となり、知識の収集が急がれている。
聞き書きは、伝統知・地域知の間接的な体験と考えられている。2002年に始まった「聞き書き甲子園」は、生態系管理や植物の利用に関して豊富な経験・技術・知識を持つ50歳代から90歳代の名人を語り手に高校生が1対1で聞き取りを行い、聞き書き集にまとめていくプロジェクトである(https://www.kikigaki.net/entry)。本講演では、若い世代による聞き書きを通して日本の伝統知・地域知を抽出し、1)どのような植物分類群が利用されているか、2)植物分類群と名人の知識がどのような生態系サービスを支えているか、それらのネットワークはどのようになっているか、3)植物分類群数と名人の知識の減少が生態系サービスの項目数にどのような影響を与えるか、について評価した結果に基づき、今も使われている伝統知・地域知の実態を報告する。
名人達は、スギ、ケヤキ、タケの仲間など大型の植物の材や稈を、供給サービスとして利用する知識を多く保持していた。知識によって結ばれる植物と生態系サービスの関係は複雑であり、知識の冗長性により生態系サービスの頑健性が確保されていると考えられた。同時に、これらの知識の継承が途絶えると、伝統知・地域知の急激な消失が起こる可能性が明らかとなった。