| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-013 (Poster presentation)
人の生活の中で管理・維持される生態系は、社会構造の変化に伴う人の関わり方の変化に影響を受けてきた。このような生態系への影響は、人為的なものだけでなく環境要因によっても変化すると考えられる。
茅場は草資源の利用減少、宅地や農地への転換等による影響を受けてきた。茅葺き屋根の需要の減少に伴って多くが失われたが、全国には茅葺きの文化財が残っており、現在もわずかではあるが茅を供給している茅場もある。ところが、茅刈りや火入れにより維持されている茅場においても、過去と比べて茅の質が落ちたと茅葺き職人の間で言われている。茅の質の低下により屋根材としての利用価値が下がると、茅を流通させることができず、生業が成り立たなくなる。結果として茅場が放棄されて草刈りや火入れ等の管理がなくなり、生態系が大きく変化する恐れがある。また、文化財の維持は地域の文化的な価値にも影響する。そこで本研究では、茅の質を維持しつつ茅場を利用する可能性を探るために、茅となる植物の変化の実態と茅の質の変化の原因について調べた。
妙岐ノ鼻湿原において、1981年から独立行政法人水資源機構が実施する植生調査の結果を用いて過去から現在の変化を調べた。茅の質については1981年と同様の方法で2023年に調査を実施した。その結果、茅刈りの有無に関わらず、茅場全体で茅の構成種として重要なカモノハシが減少し、より湿潤な環境を好む種の被度が増える傾向が示された。霞ヶ浦では1996年以降、開発事業により水位がそれまでより約20㎝高くなり、わずかな水位の変化が植生に影響したことが示唆された。また、茅の質として構成種の被度と長さを過去と比較したところ、カモノハシの長さに有意な差は無かったが、カモノハシの被度が減少しチゴザサが増加していた。茅束にした時に含まれる種構成の割合が変化したことで、茅が短くなって質が落ちたと言われるようになった可能性がある。