| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨
ESJ71 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-016  (Poster presentation)

ベレンティ保護区のEulemur属キツネザル雑種個体群の毛色変異と色覚
Coat color variations and color vision of a Eulemur hybrid population in Berenty, Madagascar

*田中美希子, 田中洋之, 平井啓久(京都大学)
*Mikiko TANAKA, Hiroyuki TANAKA, Hirohisa HIRAI(Kyoto University)

動物の種の認識や配偶者選択に体色が深く関わっていることは、魚類などでよく知られている。哺乳類の毛色は種の認識や配偶者選択にどのように関わっているのだろうか。マダガスカルに生息するEulemur 属のキツネザルは、ほとんどの種に性的二型がみられ、オスの顔の毛色が特徴的である。これまでに、ベレンティ保護区に導入されたアカビタイキツネザル(Eulemur rufifrons、染色体数 2n=60)およびアカエリキツネザル(E. collaris、染色体数 2n=52)の2種を起源とする個体群の遺伝分析から、交雑個体が存在していることが明らかになっている。Eulemur 属キツネザルの色覚はオスが2色型、メスが2色型または3色型であるとされている。ベレンティ保護区に導入された両種のオスは顔の毛色に赤色系の部位があり、メスによる赤色の認識の有無が配偶者選択に関わる可能性がある。本研究ではアカビタイキツネザルおよびアカエリキツネザルを起源とする雑種個体群(2n=56-60)の顔の毛色変異と色覚遺伝子を分析した。写真を用いて表現型をスコア化して評価する方法と画像データによる顔の毛色の比較(毛色2部位についてRGB値のユークリッド距離で比較)を試みたところ、雑種個体群では、オス・メスともに表現型がアカビタイキツネザルに近い個体が多くみられ、中間の表現型もみられた。色覚遺伝子分析では、アカビタイキツネザル、アカエリキツネザル、雑種個体群ともにMオプシンをもつ2色型であることが示唆された。L/M オプシン遺伝子分析から、アカビタイキツネザルとアカエリキツネザルは2色型の色覚を持つことが示唆された。両種のオスの赤系の毛色の特徴は、メスによる配偶者選択に影響があるという期待とは異なる結果であったが、濃淡など2色型色覚での識別がなされていると推察された。写真による毛色の画像解析は非侵襲的サンプリングで分析可能であり、野生動物の種の同定および交雑の分析に有効な方法であると考えられた。


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