| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-017 (Poster presentation)
不妊虫放飼法 (SIT)は対象の害虫を人工的に大量増殖・不妊化し、野外に定期的に放飼することで野生害虫の正常な交尾を阻害し、根絶に至らせる防除方法である。沖縄県では、サツマイモの塊根に産卵された幼虫が塊根を食害する2種のゾウムシ類 (アリモドキゾウムシ、イモゾウムシ (以下、アリモ、イモゾウ))に対して、SITを用いた根絶防除事業を実施している。このうち、アリモは2つの島で根絶に成功したが、イモゾウは未だ根絶には至っていない。その原因の1つとして、寄主脱出時に既に性成熟している羽化成虫が地上に出現する前に野生虫同士で交尾する可能性が考えられた。そこで、このような野生虫同士の交尾により不妊虫との交尾が成立せず、SITの防除効果が減少しているという仮説を立て、それを実験的に検証した。また、得られたデータを基に数理モデルを用いて2種のゾウムシ類に対するSITの効果を調べた。両種に寄生させたサツマイモ塊根を土に埋め、地上に出現したメス成虫を即座に回収してメスの貯精嚢を確認した結果、アリモは地上出現時にはほぼ全てが未交尾であったが、イモゾウでは15%ほどが地上出現時には既交尾であることが判明した。数理モデルでは、野生虫の一部 (p)は地上出現前に交尾し、不妊虫の影響を受けない一方で、近交弱勢によって繁殖率が減少すると仮定した。その結果、近交弱勢があっても、不妊虫の影響を受けない野生虫のみで個体群が存続できれば根絶は不可能であることが示された。また、pが野生虫の死亡率 (d)と繁殖率 (r)の比率を下回ることが根絶を達成するための十分条件であることが分かった (p < d / r)。以上より、地上出現前に交尾する個体が相当数存在するイモゾウについては、死亡率と繁殖率を調べたうえで、野外のイモ圃場でのSITによる根絶可能性について議論する必要があると結論付けられた。