| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨
ESJ71 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-020  (Poster presentation)

環境DNAで魚類のローカルな集団構造を捉えられるか?景観遺伝学への適用可能性検証
Can environmental DNA metabarcoding reveal local population structure of fish? Testing the applicability to landscape genetics

*中島颯大, 釣健司, 崎谷和貴(土木研究所)
*Souta NAKAJIMA, Kenji TSURI, Kazutaka SAKIYA(PWRI)

近年、簡易に生物相を特定する手法として活用の進んでいる環境DNAメタバーコーディング解析が、遺伝的多様性評価や系統地理学においても部分的に使用できることが明らかになってきた。しかし、種内の遺伝的変異を用いた学問のうち、ローカルスケールでの遺伝的変異を調べることで生物の移動分散による集団間の遺伝子流動などを明らかにする景観遺伝学においては、環境DNAの活用可能性は分かっていない。本研究では、環境DNAで得られたデータによる景観遺伝学的解析が可能か明らかにすることを目的とした。
研究は石狩川水系空知川のハナカジカを対象とし、当該流域内で密な集団遺伝解析を行った先行研究(Nakajima et al. 2021など)におけるハナカジカ採取地21地点の早瀬の下流側でステリベクスを用いた採水・濾過を行った。抽出DNAからD-loop領域(約400 bp)のメタバーコーディング解析を行い、サンプル内におけるハプロタイプのリード数の割合を遺伝子頻度とみなした集団遺伝解析を行った。その結果、ハプロタイプの分布には水系ネットワークに対応した空間構造がみられ、そのパターンは組織DNAの解析から得られたものと概ね一致していた。また、環境DNAで得られたデータから地点間の遺伝的分化度(DPS = 1 − 共有ハプロタイプの割合; Bowcock et al. 1994)を計算したところ、組織DNAから計算した結果と高い相関を示した(同じ領域で比較した場合: Mantel r = 0.825, p < 0.001)。さらに、本種の先行研究で示されている「地点間の遺伝的分化は地理的距離と有意に相関し、夏季水温差との相関はみられない」パターンが環境DNAの解析によっても得られることが確認され、環境DNAメタバーコーディング解析により基礎的な景観遺伝学的解析を一定程度行えることが示された。


日本生態学会