| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨
ESJ71 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-023  (Poster presentation)

寄生虫の影響は温度に依存して変化するか?冷水性サケ科魚類での検証【O】
Evaluating the temperature-dependent effects of parasites on cold-water salmonids【O】

*長谷川稜太(北海道大学環境科学院), 植村洋亮(北海道大学環境科学院), 三浦一輝(北海道立総合研究機構), 小泉逸郎(北海道大学環境科学院)
*Ryota HASEGAWA(Hokkaido Univ.), Yohsuke UEMURA(Hokkaido Univ.), Kazuki MIURA(Hokkaido Research Organization), Itsuro KOIZUMI(Hokkaido Univ.)

 動物は寄生を受けた際、抵抗性 (resistance) と耐性 (tolerance) という二つの戦略で対抗する。抵抗性は寄生虫を直接攻撃することで、寄生数を減らす戦略であるのに対し、耐性は寄生虫によるダメージを修復することで健康状態を高く保つ戦略である。抵抗性に比べ耐性は、動物宿主―寄生虫系ではこれまであまり着目されておらず、特に温度などの環境条件によって耐性が変化するかは、ほとんど検証されていない。
 本研究ではサケ科魚類2種(アメマスとオショロコマ)とその外部寄生虫(カイアシ類ナガクビムシ2種とコガタカワシンジュガイ幼生、以下、コガタと表記)に着目し、温度条件で宿主の耐性が変化するか検証した。特に冷水性のサケ科魚類では、高温条件ほど耐性が低くなり、その傾向は複数種が寄生する共感染が起きた場合、より顕著になると予測した。
 2022年から2023年にかけて、北海道の計22水系133地点で野外調査を行った。クラスター分析により、各調査地点を低温・中温・高温にカテゴリ分けした。耐性は宿主の肥満度に対する寄生数の回帰の傾きと定義し、温度帯ごとに耐性を比較した。
 アメマスではナガクビムシ数が増加するにつれ、肥満度は低下したが、温度によって耐性は変わらなかった。一方、共感染されたアメマスでは低温でナガクビムシ数が増えるにつれて肥満度が低下したのに対し、共感染されていない個体ではその傾向は見られなかった。オショロコマでは、低温ではナガクビムシ数の増加に伴い肥満度が低下したが、中温ではその傾向は見られなかった。共感染を考慮に入れた場合は、耐性には違いが見られなかった。
 以上の結果から温度条件や共感染により、耐性が変化することが示唆された。しかし予測とは異なり、両種共に低温で耐性が低下する傾向があった。高温な生息地ではむしろ餌量が多かったり、代謝が活発であるために寄生虫による物理的なダメージを修復しやすいのかもしれない。


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