| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨
ESJ71 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-024  (Poster presentation)

温暖化による河川性サケ科魚類の局所絶滅の検証:30年前との分布比較【O】
Local extinction of a freshwater salmonid by global warming: comparison of the current distribution with 30 years ago【O】

*植村洋亮(北海道大学), 長谷川稜太(北海道大学), 武内優真(北海道大学), 長谷川功(水産資源研究所), 原成月(北海道大学), 大槻泰彦(北海道大学), 小泉逸郎(北海道大学)
*Yohsuke UEMURA(Hokkaido Univ.), Ryota HASEGAWA(Hokkaido Univ.), Yuma TAKEUCHI(Hokkaido Univ.), Koh HASEGAWA(Fisheries Resources Inst.), Natsuki HARA(Hokkaido Univ.), Yasuhiko OTSUKI(Hokkaido Univ.), Itsuro KOIZUMI(Hokkaido Univ.)

 気候変動にともなう個体群の絶滅リスク評価は主に将来の分布予測によって行われてきた。しかし、それらの予測とその後に実際生じた絶滅を比較した研究は非常に少ない。今から約30年前、北海道のサケ科魚類オショロコマの温暖化による個体群絶滅モデルが提唱され、約1°Cの気温上昇で約28%が局所絶滅すると予測された。そして、当時から北海道の気温は約1°C上昇しているが、どれだけのオショロコマ個体群が存続しているのかは不明である。そこで本研究では、過去の研究でオショロコマが確認された109地点においてどのくらいの個体群が存続しているか確認し、過去の予測モデルの妥当性を検証した。
 その結果、18.5%の個体群で局所的な絶滅が確認された。また、過去のモデルを適用した予測と実際の絶滅は異なっており、その正確性は50.8%であった。また、過去、オショロコマと、同属の競争種であるアメマスがそれぞれ単独で生息した場所(単独域)と両種が同所的に生息した場所(混棲域)について着目した。過去と現在を比較したところ、オショロコマの単独域が減少し、アメマスとの混棲域が2倍以上に増加していた。加えて、オショロコマの局所絶滅が起こった場所の要因を解析した結果、外来種の存在、夏季水温の上昇、川幅の狭さなどが相対重要度の高い予測因子と考えられた。
 これらの結果は温暖化で河川水温が上昇したことにより、かつて高温域に分布していた種が低温域だった場所へ侵入し、種間競争を介して置き換わろうとしていることを示唆する。また、川幅が狭い場所の水温は気温上昇の影響を強く受けていたのかもしれない。したがって、より正確な分布予測のためには物理環境のみを用いるのではなく、種間相互作用も考慮したパタン推定が必要である。今後は、長期的なモニタリングデータと合わせて、絶滅のメカニズムを推定していく予定である。


日本生態学会