| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-026 (Poster presentation)
イノシシとブタの致死性の感染症である豚熱は、2018年9月に岐阜県において、日本で26年ぶりに再確認がされた。その後、再確認地点の周辺部の豚飼養施設のブタと野外のイノシシでの感染確認が相次いだ。本研究で対象とした兵庫県の本州部では2021年3月14日に丹波市で、淡路島では北部で2021年7月28日に(再確認後の)初確認された。その後、兵庫県内全域に感染が拡大し、2023年12月時点で野生イノシシ191個体の感染が確認されている。野生イノシシにおける豚熱感染を沈静化させるための主な対策は、①移動阻害のための給餌、②柵の設置、③低密度化のための捕獲、④免疫獲得のための経口ワクチンの散布と言われており、国内では①を除いて②(岐阜県のみ)・③・④が実施されている。本研究では対策のための基礎的な情報として生息密度と感染拡大速度との関係解析と、経口ワクチン散布の免疫付与効果の検証を実施した。生息密度と感染拡大速度の関係解析では、生息密度が低い本州部と高い淡路島の感染の拡大速度を比較した。使用したデータは、本州部で初めて確認された2021年3月14日から2022年1月13日、淡路島で初めて確認された2021年7月28日から島の南端に達した2022年1月13日までである。本州部と淡路島でそれぞれ初めて確認された場所を起点として、各陽性確認地点までの距離を算出し、初確認地点からの日数を分位点回帰した。その結果、感染拡大速度は、密度の低い本州部では約0.05km/日、密度の高い淡路島は約0.2km/日となり、密度が高いと感染拡大が速い可能性が示唆された。経口ワクチン散布の免疫付与効果の検証では、地域・月ごとの抗体と抗原の検査結果の推移に、前月の陽性率と経口ワクチン散布有無の影響を評価した。その結果、前月の陽性個体は面積獲得個体の割合に正に効いたが、経口ワクチン散布の効果は確認できなかった。