| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨
ESJ71 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-027  (Poster presentation)

なぜ屋久島はアカウミガメの北太平洋最大の産卵場なのか? 性比からの洞察
Why is Yakushima Island the largest rookery for loggerhead sea turtles in the North Pacific?: an insight from sex ratios

*畑瀬英男, 渡邊俊, 小林徹(近畿大学農学部)
*Hideo HATASE, Shun WATANABE, Toru KOBAYASHI(Kindai Univ.)

 性比は集団サイズの決定要因の一つである、「実効性比」が極端に偏っていれば、有効集団サイズは小さくなり、集団成長は望めない。孵化温度で性が決まるウミガメでは、高温で雌を、低温で雄を生じる。砂中温度の高い産卵地では、「一次性比」が雌へ極端に偏っていても、高温で生じる雌の幼体は小型で不活発なため生き残りにくく、「実効性比」は逆に雄へ偏ることが報告されている。本研究では、砂中温度がそれほど上昇しない、アカウミガメの北太平洋最大の産卵場である屋久島において、(1)実効性比はつり合っているのか、(2)成長に伴い性比が変化するのか、を検証した。
 2014,2015,2016,2020,2021年の5~7月に鹿児島県屋久島永田浜において産卵雌調査を行い、計107巣を浜上部へ移植した。8~9月に、産卵日から幼体の巣からの初脱出日までの日数である孵化期間を記録した。孵化期間を砂中温度へ変換し、その孵化期間中の気温と雨量から砂中温度を推定する回帰式を作った。5~7月を6つの期間に分け、各期間に産出された卵塊が経験した砂中温度を、気温と雨量から1975~2022年の48年分推定した。雌雄を分かつ臨界温度を29.7℃とし、各期間の性比を砂中温度から推定した。各期間の性比に巣の頻度をかけて総計し、各年の一次性比とした。2020と2021年には、産卵雌28頭とその幼体548頭から遺伝子分析用試料を採取し、マイクロサテライト5座位の解析を行った。GERUDとCOLONYを用いて父親数を推定し、実効性比を算出した。
 48年間の平均(±SD)一次性比(%雌)は、28.1±14.1であった。実効性比は、GERUDで40.9、COLONYで25.2、平均33.1であった。実効性比に極端な偏りが見られないことは、屋久島で繁殖するアカウミガメの有効集団サイズが大きいことを示唆する。また一次性比と実効性比にあまり大きな違いが見られなかったことは、屋久島では雌雄の幼体の生残率が同様であることを示唆する。これらの結果は、孵化環境がウミガメの集団サイズを主に決めていることを示唆する。


日本生態学会