| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-030 (Poster presentation)
気候変動は洪水の規模や頻度を増加させている。洪水撹乱は両生類や魚類などの再生産効率(親あたりの子の数)を低下させるため、気候変動下でも再生産効率を高く維持できる流域を優先的に保全することが重要である。洪水撹乱の強度は流域の地形特性によって規定されることから、洪水撹乱の影響を受けやすい流域を地形特性から予測することができる可能性がある。そこで、サケ科魚類の一種であるカラフトマス(Oncorhynchus gorbuscha)を対象として、再生産効率と流域地形特性の関係を調べた。
知床半島の10流域において、2020年から2022年にかけてカラフトマスの親魚数と稚魚数を調べた。また、各流域において地形特性(流域平均傾斜およびストリームパワー)や降水量、平均水温などの環境要因を算出した。そして、一般化線形混合モデルを用いて、カラフトマスの再生産効率の規定要因を評価した。また、構築したモデルを用いて、知床半島全域を対象として現在および将来の気候条件におけるカラフトマスの再生産効率を予測した。
カラフトマスの再生産効率は流域によって異なり、流域平均傾斜、ストリームパワー、産卵期間中の最大日降水量から負の影響を受けた。つまり、洪水撹乱はカラフトマスの再生産効率を低下させるが、その影響の強さは流域地形特性によって左右されることが明らかとなった。また、気候変動によって降水量が増加した場合の再生産効率は、現在の再生産効率よりも顕著に低くなったが、傾斜が緩やかな流域では再生産効率が高く維持されることが明らかとなった。気候変動下でカラフトマスの個体群を維持し続けるためには、本研究で予測された再生産効率が高く保たれる流域を優先的に保全するべきである。