| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨
ESJ71 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-038  (Poster presentation)

複雑な生態系における創発的ネットワーク不確定性の解明
Unraveling emergent network indeterminacy in complex ecosystems

*川津一隆(東北大学)
*Kazutaka KAWATSU(Tohoku University)

間接効果とは,ある種が多種に対して相互作用の連鎖を介して及ぼす影響を指し,ときとして直接的な種間関係からは予測できない結末を生物群集にもたらすことがある.特に,複雑な生態ネットワークでは相互作用の間接経路が指数関数的に増大することになり,環境変化に対する長期的な応答の予測が困難になると考えられてきた.しかしながら,このネットワークの不確定性を引き起こす生態学的特徴に関する包括的な理解は,いまだ得られていない.

そこで,本研究ではランダム行列理論(RMT)を用いて,生物群集における摂動の結果が直接的な種間関係に基づいて予測可能かどうかを判断するための理論的枠組を定式化し,生物群集の様々な特徴(ネットワークの複雑性,相互作用の平均,分散,相関)がネットワーク不確定性に与える影響を調べる数理解析と数値計算を行った.その結果,予測可能性が相互作用の複雑性だけでなく,その他の特性にも複雑に依存していることが明らかとなった.特に,従来の考えとは異なり,相互作用の不確定性は大規模な競争・相利共生系では生じにくいが,トップダウン制御の食物網では一般的な現象になることがわかった.さらに,予測可能な摂動と不可能な摂動が同じネットワーク内で共存すること,および予測不可能な環境変化への応答が競争・相利共生系よりも捕食–被食関係が優勢な群集でより頻繁に生じることが明らかになった.これらの知見は,自然生態系における予測不可能な環境撹乱の方向と大きさを特定するには,RMTと種間関係の知識の統合が重要であることを示している.加えて,この理論的枠組はネットワーク同定の逆問題,すなわち観測された摂動結果から直接的な因果関係を再構築できるかどうか,という問題にも適用可能であり,医学や工学などの他の分野にも影響を与える可能性がある.


日本生態学会