| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨
ESJ71 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-041  (Poster presentation)

死臭に興奮? 食肉目による擦り付け行動
Rubbing behaviour on mammalian carcasses by carnivores

*橋詰茜(日本大学生物資源), 幸田良介(大阪環農水研・多様性), 中島啓裕(日本大学生物資源)
*Akane HASHIZUME(Nihon Univ.), Ryosuke KODA(RIEAFO, Biodiv), Yoshihiro NAKASHIMA(Nihon Univ.)

Self-anointing(自己塗布)とは,動物が「ニオイのある物質(他種の分泌物など)を,手足や道具を使って体に塗り付けたり,あるいは直接ニオイ源に体を擦り付けたりする行為」と定義される.こうした行動は鳥類や哺乳類などさまざまな分類群で報告されており,寄生生物や病原体による感染を回避,もしくは軽減する機能があることも示されつつある.しかし,哺乳綱食肉目においては,縄張りの主張や種間・種内のコミュニケーションなどを目的としたマーキングとの区別が難しく,ほとんど体系的な研究がおこなわれていない.本研究では,北海道八雲町において,有害駆除されたアライグマの死体(計96頭)を設置し,自動撮影カメラによって得られた動画から,どのような種がどこに体を擦り付けているかを分類した.調査は,2016年から2019年の夏季と冬季に実施した.この結果,4種の食肉目(キツネ,タヌキ,ヒグマ,テン)による擦り付け行動が確認された.季節間で観察される種は異なっていたものの,夏季はヒグマ(N = 7),タヌキ(N = 6),キツネ(N = 1)が死体自体に直接体を擦り付けているのに対して,冬季はキツネ(N = 7)とテン(N = 5)が死体には接触せずにその周辺で体を擦り付けていることが分かった.また,冬季には同時にスカベンジング行動が見られることもあった.こうした季節による擦り付け行動のパターンの違いは,死体の資源としての特徴と,それに応じた利用目的の違いが反映された結果であるかもしれない.冬季の擦り付け行動は,周辺環境に自身のニオイを付けることで存在を主張(マーキング)し,餌資源を独占するためであった可能性がある.一方で,夏季の死体は,活発な分解によって短期間のうちに餌資源としての価値は低下し,それ自体が強い腐敗臭を発するようになる.ここにあえて直接体を擦り付けるのは,ニオイ物質を自身の体に移すことを目的とする行動,すなわちSelf-anointingである可能性を示唆する.


日本生態学会