| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨
ESJ71 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-042  (Poster presentation)

環境DNAを用いた海産魚類のメタ群集動態の推定
Inferring metacommunity dynamics of marine fish from environmental DNA

*西嶋翔太, 本郷悠貴, 岡村寛(水産機構・資源研)
*Shota NISHIJIMA, Yuki HONGO, Hiroshi OKAMURA(FRA)

多種共存を促進する理論の一つに、定着と競争のトレードオフがある。多くの理論研究がこのトレードオフを仮定している一方で、このトレードオフが検出された実証研究は植物や菌類、原生動物、昆虫の例が多く、脊椎動物を対象にして実証された例は少ない。
環境DNAは生物種の広域の分布を効率的に把握可能な技術である。本研究では、網羅的に複数の魚種の在不在情報を収集可能な環境DNAメタバーコーディングを用いて、海産魚類のメタ群集動態を推定し、定着と競争のトレードオフが存在するかどうかを検証した。
2019年の月ごとの東京湾内14か所で採集されたサンプルを、ユニバーサルプライマーMiFishでメタバーコーディング分析した結果を使用した。ある種のある月の各サイトにおける生息確率を、前の月の生息確率・定着確率・局所絶滅確率の関数として表し、偽陰性を考慮したメタ群集占有モデルを構築した。解析した167種のうち、多くは稀にしか検出されなかったため、最尤法を行うと検出確率や定着確率、局所絶滅確率といったパラメータが0や1付近の極端な値に推定されるという問題が生じた。そこで、リッジ回帰による罰則付き尤度を用いてパラメータ推定を行い、罰則の強さは10分割交差検証により選択した。その結果、極端な値の頻度が減少し、限られたデータから合理的なパラメータ推定値を得ることができた。
次に、得られたパラメータから各種の定着率と局所絶滅確率の関係を解析した。この際、局所絶滅確率が競争能力を表すと考えた(局所絶滅確率が低いほど競争能力が高い)。その結果、167魚種において定着確率と絶滅確率間に有意な正の関係が得られ、魚類層全体にわたって定着と競争のトレードオフが存在することを示唆された。こうしたトレードオフの関係は、栄養段階や体サイズといった形質や適性水温によって変化することも明らかになった。今後、本研究で用いたメタ群集占有モデルと調査デザインが十分な推定精度を有するのかを検証する必要がある。


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