| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-043 (Poster presentation)
池沼、湿地などの止水域は生物多様性が高いが、開発や水質汚染、侵略的外来種の侵入、気候変動により世界的に減少傾向が著しい。止水性の水生生物にとって、元々の生息地である氾濫原や後背湿地の多くが消失した日本では、ため池は重要な生息地となっているが、コンクリート護岸化や管理放棄、侵略的外来種の侵入により危機的状況である。さらに、2019年以降、全国20万ほどのため池のうち7万弱が「防災重点ため池」に選定され、安全対策が求められる中で廃止の動きも加速化している。各地で堤をV字状に切り崩し水位を大幅に低下させる工事が進む一方で、50㎝~1mほどの水深を維持する工事も一部で実施されている。
池の水深は光量、溶存酸素、植生などを制御する環境要因であり、止水性の水生生物群集に影響を及ぼすと考えられる。そのため、本研究では水深が水生生物に及ぼす影響を野外操作実験によって評価した。
生物多様性の高い岩手県一関市において、最深部を30㎝、90㎝、150㎝の3段階の水深とした4m四方の計18の実験池が、久保川イーハトーブ自然再生研究所によって2021年4月に造成された。以後、2023年までの毎年3月~11月の日中に、水深の深い部分と浅い部分における水生生物の生息状況を調査した。その結果、フサカ幼虫と一部のミジンコ類はほとんどが深い部分で確認され、ミズカマキリ、ツチガエル成体も深い部分での確認が多かったが、いずれの種も季節毎に利用状況は異なった。一方、多くの種は、深い池の深い部分よりも、浅い池および深い池の浅い部分の両方で確認された。深い水深ではシャジクモ、ハリイなどの一部の水生植物しか生育できず、水生動物群集に影響を及ぼした可能性があった。以上より、防災重点ため池工事において水深を維持することは、越冬期などに深い場所を利用する生物に必要であり、水域の湛水期間の増加が多くの生物の生息につながることから、生物多様性保全に有用と考えられる。