| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨
ESJ71 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-055  (Poster presentation)

ヤドカリのFamiliar recognition:攻撃はしないが低強度の相互作用は維持される
Familiar recognition in a hermit crab via small fights: no attack, but with normal interaction

工藤悠加, *石原千晶(北海道大学)
Haruka KUDO, *Chiaki ISHIHARA(Hokkaido Univ.)

個体識別は任意の個体を集団中の別の個体から区別する動物の認知能力の1つである。個体識別能力のうち、過去の遭遇経験に基づいて、既に遭遇したことのある既知の個体 (Familiar) と、初対面の未知の個体 (Unfamiliar) を識別することを、Familiar recognition (FR) と呼ぶ。FRは近年甲殻類を含む無脊椎動物で報告が相次いでおり、本研究の対象種であるテナガホンヤドカリ Pagurus middendorffii もその1種である。本種のオスは繁殖期にメスをめぐって闘争するが、このとき、闘争相手のオスからメスを奪うことに失敗した劣位オスは、次の闘争相手と遭遇した際に、その相手が未知のオスであれば再度闘争を挑み、先ほど自身が敗北した既知のオスであれば闘争を避けるという FR を示す。
 本研究では、本種がオス間闘争以外の文脈でもFRを示すか明らかにするため、非繁殖期の小競り合い (同居) 経験に基づく個体識別能力を検証した。実験では、オス2個体、あるいはメス2個体を同一の水槽に入れ、 (1) 水槽投入の直後、(2) 24時間同居した後の相互作用を観察・記録した。(2) では、雌雄共に、同居個体同士 (Familiar: F群)、および別の水槽からの個体同士 (Unfamiliar: U群) の行動を観察した。
 データの一部を解析したところ、オスでは、全体的な相互作用強度が F 群の方が U 群よりも低くなる傾向が検出された。さらに、観察された相互作用を、攻撃的接触を伴わない低強度のものと、攻撃的接触を伴う高強度のものに区別して比較したところ、低強度の相互作用は F 群・ U 群共に同程度観察されたのに対し、高強度の相互作用は F 群の方が U 群よりも少ない傾向があった。一方メスでは、相互作用全体・低強度・高強度のいずれにおいても両群に差は認められなかった。発表の際には、その他のデータについても解析を進め、より詳細な報告をおこないたい。


日本生態学会