| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨
ESJ71 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-058  (Poster presentation)

社会性ハダニにおける糞管理の適応的意義: 糞管理は産卵数と生存率に影響するのか?
Adaptive significance of fecal management in a social spider mite: Does fecal management affect fecundity and survival of nest mates?

*新藤啓太, 松山茂, 佐藤幸恵(筑波大学)
*Keita SHINDO, Shigeru MATSUYAMA, Yukie SATO(Tsukuba Univ.)

動物にとって排泄は不可欠であるが、排泄物である糞は、衛生や生活空間の確保などの面で悪影響を与えうる。特に、巣を作り、そこで定住的に集団生活を送る社会性動物では、その影響が大きい。そのため、社会性動物では特定の場所で排泄する、巣から糞を運び出すといった糞管理が見られる。ダニ目ハダニ科に属するササ寄生性のケナガスゴモリハダニは、ササ葉裏の主脈沿いに糸でトンネル状の巣を作り、そこで集団生活を営む。巣は出入り口方向に増築を繰り返すことで大きくなり、集団は最大で数百匹にもなる。そのため、大量の糞の処理が課題となるが、本種では巣の出入り口付近といった特定の場所でのみ糞が見られる。本種は目が見えないが、嗅覚により糞から揮発する化学物質を感知して既に糞がある場所を、糞が無い場合には触覚により巣の出入り口場所を認識して排泄することにより、この糞管理が成り立っている。しかし、この糞管理がどれだけ衛生や生活空間の有効活用に役立っているかは調べられていない。そこで本研究では、雌5匹または7匹に営巣させた巣に、この揮発性物質を使って排泄場所とその数を変化させ、それら変化が産卵数や生存率、増築回数に与える影響を14日間にわたって調査した。その結果、排泄場所は巣の出入り口から巣の中央に、数は雌5匹巣では平均2.1から4.5個、雌7匹巣では平均2.1から5.0個に変化した。しかし、これら変化による産卵数の減少や、雌成虫、卵及び未成熟虫の生存率の低下はどちらの雌数の巣においても見られなかった。一方、排泄場所の変化により、増築回数が雌5匹巣では平均4.0から4.7回、雌7匹巣では平均4.7から5.5回に増加した。これらの結果から、排泄場所操作の影響は巣の増築により緩和され、産卵数や生存率に現れなかったと考えられる。今後は、増築ができない状況を作って同様の実験を行い、本種の糞管理の適応的意義を引き続き探っていきたい。


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